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殿様枕症候群:高い枕が引き起こす健康リスクと歴史的背景
1. はじめに
国立循環器病研究センター(以下、国循)は、脳卒中の一因となる特発性椎骨動脈解離と枕の高さの関係を調査し、新たな疾患概念「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」を提唱しました。この研究は、特発性椎骨動脈解離の原因として高い枕の使用が関与することを明らかにし、脳卒中予防の新たな視点を提供します。
2. 背景
脳卒中は通常、高齢者に発症する病気とされていますが、若年から中年層でも特発性椎骨動脈解離によって脳卒中が発症することがあります。椎骨動脈解離は、首の後ろの椎骨動脈という血管が裂けてしまうことで起こり、根本治療が存在しないため、予防策の確立が求められていました。国循の研究チームは、特に高い枕の使用がこの疾患に影響を与える可能性に着目しました。
3. 研究手法と成果
3.1 研究手法
国循では、2018年から2023年にかけて特発性椎骨動脈解離と診断された患者53名と、同期間に入院した年齢と性別をマッチさせた対照群53名を対象に、発症時に使用していた枕の高さと硬さを調査しました。枕の高さは12cm以上を「高値」、15cm以上を「極端な高値」と定義しました。また、枕の硬さや首の屈曲の有無についても調査しました。
3.2 研究成果
調査の結果、高い枕の使用は症例群で34%、対照群で15%と、有意に多いことが判明しました。特に、15cm以上の枕を使用していた場合、特発性椎骨動脈解離の発症割合は17%に達し、オッズ比10.6倍という結果が示されました。この関連性は、枕が硬いほど顕著であり、柔らかい枕ではその影響が緩和されることも確認されました。
さらに、高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の関連について、首の屈曲が媒介する効果は全体の3割程度であり、寝返り時の頸部の回旋が発症に関連する可能性が示唆されました。起床時に発症し、他に誘因のない特発性椎骨動脈解離の患者の約1割が高い枕の使用に起因している可能性が示されました。
4. 殿様枕症候群の提唱
この研究成果を受け、国循の研究チームは「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」という新たな疾患概念を提唱しました。殿様枕症候群とは、高すぎる枕を使用することで特発性椎骨動脈解離が発症するリスクが高まる状態を指します。
5. 歴史的背景
日本の17〜19世紀には、「殿様枕」と呼ばれる高く硬い枕が広く使用されていました。以下の図に示すように、当時の随筆には「寿命三寸楽四寸(12cm程度の高い枕は髪型が崩れず楽だが、9cm程度の低い枕が健康に良い)」という言説が記載されています。
このように、歴史的にも高い枕が使用されていた背景があり、現代においてもその影響が残っている可能性があります。
6. 殿様枕症候群の原因と症状
6.1 原因
- 高い枕の使用:12cm以上の高い枕、特に15cm以上の極端な高値の枕の使用。
- 硬い枕の使用:硬い枕は首や肩に過度な圧力をかけ、血管や筋肉に負担を与える。
- 首の屈曲と回旋:高い枕の使用による首の屈曲と寝返り時の回旋が椎骨動脈にストレスを与え、解離を引き起こす。
6.2 症状
- 急性の首の痛み:特発性椎骨動脈解離の初期症状として、首の後ろに急性の痛みが生じる。
- 脳卒中の症状:頭痛、めまい、吐き気、視覚障害、運動障害などの脳卒中の症状が現れる。
- 慢性的な首や肩のこり:高い枕の使用により、首や肩の筋肉が緊張し、慢性的なこりや痛みが生じる。
7. 殿様枕症候群の予防と対策
7.1 枕の高さの見直し
- 適切な高さの枕の選択:仰向け寝の場合、中程度の高さ(約10cm)の枕を使用することが推奨されます。横向き寝の場合は肩幅に応じたやや高めの枕を選びましょう。
- 枕の硬さの調整:柔らかい枕を選ぶことで、首や肩への圧力を減少させることができます。
7.2 生活習慣の改善
- 姿勢の改善:デスクワークやスマートフォンの使用時に良い姿勢を保ち、首や肩に負担をかけないようにします。
- ストレス管理:ストレスを軽減するために、ヨガや瞑想、適度な運動を取り入れましょう。
7.3 医療的アプローチ
- 定期的な健康チェック:特に首や肩に通常ではない異変を感じた場合は、早期に医師の診察を受けることが重要です。
8. まとめ
国立循環器病研究センターの研究により、特発性椎骨動脈解離の原因として高い枕の使用が関連していることが明らかになりました。殿様枕症候群は、高い枕の使用による健康リスクを示す新たな疾患概念として提唱されました。血管に影響がある時点で、当然のことながら周辺の筋肉や筋膜などの軟部組織に過剰な負荷がかかり、肩こりや首の痛みにつながっていることは言うまでもありません。よって適切な枕の選択と使用、生活習慣の改善を通じて、殿様枕症候群をはじめ首肩まわりの不調の予防に努めることが重要です。







